東北タイにおける婚姻届


農村にいると、必ず聞かれるのは、「結婚しているのか?」ということ。未婚だと答えると、「それはいけない。人は家族を持ってこそ一人前。年とったとき、誰が面倒を見てくれるんだ?」と言われる。

「いや、日本では年寄りの一人暮らしは多いよ。子供も仕事や生活の違いで、同居できないことが多いし」と答えると、みんなびっくりする。

ここで皆が質問する結婚というのは、社会的にオープンな結婚式をして、多くの人に認めてもらい、同居して子供を作って、年老いた親の面倒を見るための結婚。理想であり、誰もが行うと期待される人生設計。

でもよくきくと、結婚式をしても婚姻届を役所に出さない。結婚したばかりの夫婦に聞いた。「婚姻届は出した?」「いーや、まだだよ」「どうして?」「まだその必要はない」

どういう必要性?

子供が生まれたので、また聞いた。「婚姻届は出した?」「いーや、まだだよ」「どうして?」「まだその必要はない」

二人目の子供が生まれたので、また聞いた。「婚姻届は出した?」「いーや、まだだよ」「どうして?」「まだその必要はない。だっていつ別れるかわかんないじゃない」

20代の若い二人は、まだ親から完全に独立したわけではない。出稼ぎに行って、一生懸命金をため、そのお金で土地を買ってこそ、完全に経済的に親から自立することができる。それまでは、耕作する土地も妻方の両親のものを使用し、出産のたびに妻は親の世話になっている。女性は、結婚後自分の親と同居するか、親の家のそばに家屋を建てて住むことが多い。そして親の土地も娘に分けられる。もちろん息子も相続に預かるのだが、相続分を現金や家畜などの動産にしてもらうことが多い。それを元に、結婚後相手方の実家で土地を買う足しにするのだ。

婚姻届を出してしまうと、結婚後築いた財産は共有である。つまり別れるとき、半々に分けなければならない。でも土地は妻の両親からもらいうけたもの。それを婿に取られることになる。だから結婚後も、財産や家計は夫婦で別である。必要な家族の出費があるときは、お互いの財布の中から、出せる人が出せるだけ出す。結構シビアなのだ。

しかし相続問題は、老親にとって頭が痛い問題だ。死ぬ前に贈与してしまわないと、残された子供たちの間でもめることになる。だから最近は、死を意識し始めた年寄りたちは、生前に土地などを子供たちに贈与し、一部を自分の分として残し、老後の面倒を見てくれた同居する娘に与えることを子供たちに承諾させる。

婚姻届も出さず、生前贈与もしないまま父親が亡くなってしまった場合、彼が稼いで買った土地などは子供のものとならず、他の親戚のものとなってしまう。そのため年を取ってから婚姻届を出す人が多い。

その他に、夫が農協などから金を事業資金を借りたい場合、妻の土地を担保にして金を借りるのだが、赤の他人の土地は担保とならないため、そのときも婚姻届を出す。

婚姻届を出す必要とは、こういうことを言うのだった。もちろん夫がばりばり稼いでいる場合、妻はすぐに婚姻届を出す。妻の方が事業や土地を持ち、夫が何も持たない場合、婚姻届を出すのは遅くなるようだ。

婚姻届を出すと、妻の苗字は夫の苗字となる。婚姻届を出している世帯はほとんどないので、一つの世帯に異なる苗字の人が混じることになる。子供がお父さんの苗字と違うことを悩む人は、タイにはいない。

いいクニなんじゃない?マリコ
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by chachamylove2003 | 2005-10-30 03:27 | 東北タイ