マユリの日常ー東北タイ

東北タイの村で長期間滞在しながら調査することの第一の問題点は、暑いことだ。乾期の一番暑いとき、テレビの天気予報でも日中最高温度は40度を超える。実際の体感温度は45度を超えるだろう。空気が乾燥しているので、それほどつらくはないが、昼間外を歩いていると、村人たちに「外を歩くと病気になるから、早く家に入りなさい」と言われる。

だからか、村の中で、昼寝のためのお気に入りスポットをいくつか決めている。一つは、マユリの家。彼女は、いつも自宅の一階で機を織る。そのそばのハンモックで、おしゃべりしながらいつのまにか眠ってしまうのが私のパターン。

彼女は年老いた母と、妹2人と同居する。誰も結婚していないので、男手はない。長女である彼女はすでに40を過ぎている。どうして結婚しないの?という私の問いに、彼女は「誰が私みたいな貧乏人と結婚したがるのよ。きれいでもないし」。

東北タイでは、結婚後夫が妻のもとに婿入りすることが多い。だから妻方の両親や親戚が、大地主であったり、養鶏場を持っていると、婿はそこで働くことができる。男は、体力や知力など個人の能力が優れている者が、夫として求められるのに対して、女はその家族の経済・社会的地位が期待される傾向にある。

マユリの家が所有する土地は少ない。そしてなんら商売をしているわけでもない。日々の糧は、妹たちが田畑で探して取ってきた小魚、野草と、自分たちで作った米だけである。時折、機織りの下請けをして、現金収入がある以外、本当に収入源がない。それでも借金することなく、清楚に生きているという印象を受ける家族だった。

マユリは、足が悪いが働き者だ。日々の糧を取るために、暑い中遠くの山へキノコを採りに行ったり、小さな土地に野菜を植えたりする。今は体の調子もよくないので、妹たちが外へ出ているとき、家で機織りをしながら母の面倒を見ている。

そしてマユリは明るい。いつも冗談を言い、私を笑わせてくれる。ご飯も食べろ、泊まっていけといつも誘われるのだが、私はいつも昼間しか行かない。夜は、犬に噛まれるのが怖いのだ。婦人会の集まりなどにも、マユリは世帯の代表として顔を出す。本当は出たくないので、どうしても行かなければならないときだけしか行かないという。そんな集まりに出ると、マユリは他の女たちがからかう対象になる。既婚の中年女性が集まって話すことは、結局男性と同じように、下ネタとなる。万国、誰でも共有できる話題であるようだ。

女性の避妊方法とその後の副作用についての講習会でも、「ペッサリー入れてみたら?でもあんたは関係ないわね」と言われ、草木染め講習会においても、手作業しながらの話題は夫の話やセックスの話。これもまた「あんた関係ないよね」。そういうとき、未婚女性の私とマユリは、顔を見合わせて黙ってしまうのだ。二人で共有する、この感覚。居づらいという思い。のけ者にされているといういじけた気持ち。

そのせいか、私とマユリは、なんとなく仲がよい。一緒にいても、たいした話をするわけではない。私はハンモックで昼寝。彼女は機織り。話は全くかみ合わないのに、居心地がいい。

時々こうやって調査をさぼりながら過ごす時間は、至福のときである。完全に村の人間関係に巻き込まれてしまった。調査者としては、失格と言えるのだろうけど。マリコ
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by chachamylove2003 | 2005-06-24 12:39 | 東北タイ