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不慮の事故

以前も登場したソムバット叔母さん。叔母さんの家は、田畑に隣接した、村のはずれにある。広い敷地内には多くの果樹、牛舎に豚舎、昼寝用のハンモック。乾期の暑いときも、ここなら気持ち良い風が吹き、居心地いいこと、この上ない。お喋り好きな叔母さんとゴロゴロ昼下がりを過ごしているとあっという間に夕方になる。

私が同居するトンマー母さんは、ソムバット叔母さんのことが気にくわない。
「口がうまいのよね。ああ言ってるけど、実は・・・」とすぐに陰口が始まる。そして私には、「またソムバットのところに行っていたの?マリコは、ここより彼女のところの方が好きなのよね」

ソムバット叔母さんは、草木染め機織りの婦人グループを率いている。そしてそれを基盤に小さな頼母子講のような組合活動にも関わる。夫は地元行政区の議員をしているため、次回の村長選挙には自分が村長に立候補するとまで言う。権力のある人が大好きで、役所関係の集まりがあると、女性の中では一番にはせ参じ、郡長や郡の警察官、お役人、地元政治家と非常に親しい。私をどこにでも誘って一緒につれて歩くのも、日本人というブランドを人に見せたいのだろう。

こんな人物はどこでも好かれることはないだろうが、彼女の場合は、やり手婆になる前に事故にあってしまった。そして村中の人々の同情が集中した。

バイクから落ちて頭を打ち、生死も危ない意識不明の状態が続いたとき、毎日村からトラックがチャーターされ、多くの村人が病院への見舞いに向かった。年寄りたちは、彼女のクワン(生魂:事故などによって体から抜け出てしまい、早く体内に戻さなければ死んでしまうと考えられている概念)を拾いに、事故現場に行き、また別の年寄りたちは、クワンは彼女が生活していた家にあるんだと言って、家の周りでクワンを拾って、病院に持って行った。彼女がバイクから落ちたのが、町の守護霊の祠の前だったため、霊感のある女性が守護霊の元に向かい、彼女の命を持って行かないよう拝んだ。

また、村の宗教儀礼を司る男性が、夢で、村の守護霊が彼女の夫に対する怒りを表したと言ったので、村人は彼女の夫が行政区の役員に立候補するとき、村の守護霊に当選するよう願をかけたにもかかわらず、お礼参りをしていなかったから、彼女の方に災いをもたらしたのだと噂したため、夫はあわてて花を買い、村の守護霊の祠に向かった。それを見ていた他の役員は、自分の家族にも災いがもたらされては困ると、花を持って後を追った。

村中が不慮の死を恐れ、その災いが自分にももたらされるのではないかと恐れ、パニック状態に陥った。そんな中、二人の年輩女性と私だけが、寺院で八戒を遵守する修行を行い、心を平静に保つよう努力していた。私にとっては不思議だった。誰もが彼女のことを心配するのに、誰も寺院で祈りを捧げようとする人がいなかったから。

「あんなに功徳を積んだ人だったのに、事故に遭うときは遭うんだね」

ソムバット叔母さんは、何でも派手なことが好きだったので、寺の行事も大好きで、戒律を守って寺院で過ごすことも、大きな行事のとき先頭に立って、布施を集めることも大好きだった。功徳は積めば積むほど、災難から逃れることができる。そう考えられているはずなのに、こんな大きな事故に遭うなんて。

結局、彼女は死から逃れることができた。しかし脳に障害が残り、日常生活は元に戻ることはなく、今も家で静養している。

「やっぱり功徳をたくさん積んでいたから、死ぬことから逃れたんだね」
これが最近の村人の見解。トンマー母さんも、もう彼女の陰口をたたかない。
「寂しくなったねえ」
ええ、本当に。マリコ

by chachamylove2003 | 2005-07-11 16:21 | 東北タイ